【Q&A】盗撮の基準はどこから刑事事件になるの?


 都内に住む美大生(男性)です。

街並みの人通りをテーマにスナップショットの課題が出て、渋谷、新宿、池袋の3か所で写真撮影をしていました。渋谷、池袋では、何人か協力してもらい、無事に撮影を終える事ができましたが、新宿で撮影していた所、了解を得ていた協力者の後ろをたまたま通りかかった、外国人(アジア系)の方に、盗撮と言いがかりをつけられ、警ら中の警察官に注意されました。この場合は刑事事件になるのでしょうか?
新宿は人通りが激しく、協力者以外に映りこむ人までには、とても気を使える状況ではありませんでした。丁度、人通りが途切れかけた、横断歩道をバックに最後の撮影をしていた所、点滅信号でこちらに走ってきたアジア系外国人3人組(女性)が映りこんでしまい、そのうちの一人が猛烈に抗議してきたので、辺りは一時騒然としてしまいました。「盗撮だ!」と騒ぎ立てていたので警ら中の警察官が駆けつけてきて、事情を説明したのですが、相手になかなか理解してもらえないので大変でした。困っていた所に、通りがかりの方が通訳してくれて、なんとか騒ぎは収まりました。
こちらは、大学の課題としての撮影でしたので、盗撮と言われるのはとても心外なのですが、警察官に、「きちんと了解を得ないと盗撮と言われても仕方がないよ」と言われました。また、肖像権の侵害とか東京都の迷惑防止条例にも引っかかる事もあるので、今後は注意して下さいと言われたので、正直ショックを隠せません。どこからどこまでが盗撮なのか、基準を教えてほしいです。

 

弁護士としての助言

肖像権とは,みだりに自己の容貌等を撮影され,これを公表されない人格的利益とされています。
この根拠は,憲法第13条の定める個人の尊重や幸福追求権とされています。憲法は,元々、国の権力の濫用から国民を守るための規定であり,私人間の行為を直接規律するものではありません。但し,直接の適用はないものの,間接的には肖像権を侵害した場合,民法上の不法行為の損害賠償請求や差止請求の根拠になりうるとされています。
しかし,肖像権の侵害があったとして,損害賠償の対象となるのは,「被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上受認すべき限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである」とするのが,最高裁判所の判断基準です(平成17年11月10日最高裁判所第一小法廷判決)。
ところで,本件は,大学の課題としての撮影であること,人通りの多い公共の場所であること,たまたま対象者のバックに映り込んでしまった状況であること等を総合すれば,特に肖像権の侵害にあたることはないと思います。
なお,迷惑防止条例との関係ですが,写真撮影が迷惑防止条例に該当して処罰の対象になるのは,駅の階段の下から女性のスカートの中を撮影したとか,公衆トイレの中を撮影したというような場合です。本件のような場合,迷惑防止条例違反で処罰されるようなことはありません。迷惑防止条例は,「何人も,女子に対し,公共の場所又は公共の乗物において,女子を著しくしゅう恥させ,又は女子に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。男子に対するこれらの行為も,同様とする。」と規定されています。
従って,本件のような場合,迷惑防止条例に該当しないことは明らかです。