詐欺的強迫的商法

◆ 事件の内容

(1)相談者は,若い方でしたが,インターネットで女性の個人撮影会の案内画面を見て,Xという主催者に申込みを行い,当日,指定された場所に出向き,参加料金1万4000円を支払い,「誓約書」に署名・押印しています。

その「誓約書」の内容は,直接女性に触れたり,性的行為をしてはならないという内容になっており,これに違反した場合,「損害賠償(賠償金50万円)の責任を負います」と記載されていました。

(2)撮影会が開始され,個室において,指定していたモデルと対面して,徐々に衣服を脱いでもらう状況で撮影を行いました。そのような状況もあり,相談者は,モデルの女性に対し,禁止されていることは認識していましたが,「少し触ってもいい?」と尋ね,女性モデルから特に拒否をする回答がなかったため,同意してもらったと思い,乳首に接触したり,数秒間,陰部に舌をあてる行為を行っています。

なお,その間も,女性は,演技とは思われますが「ああ」というような声を発し,「やめてください」というような発言は一切ありませんでした。

なお,相談者は,このような行為が禁止されていることは認識していたため,これ以上の行為は行わず,個人撮影会は終了し,最後にモデルの女性から握手を求められ,これに応じて個室を後にしています。

(3)その後,相談者は,帰宅するために,最寄りの駅のホームで電車を待っていたところ,主催者から「事務所に一旦戻ってきてほしい」との連絡が入り,相談者は一旦撮影場所に戻りました。

その上で,受付担当者から撮影を行った部屋に通され,女性モデルに触った事実を指摘され,契約違反であるとの指摘を受け,相談者もこの事実を認めました。

(4)すると,受付担当者から「誠意を見せてほしい」と言われたため,相談者が「1万円とかでもいいですか?」と尋ねると,受付担当者から「以前は2,30万円くらい払った人がいました」と言われ,そのような大金を持っていなかった相談者は,手持ちのお金は1万円であり,銀行から引き出せるお金も6万円程度で,帰りの電車賃も必要なので6万5000円で決着付けてほしいと要求したところ,受付担当者から「その金額でやむを得ない」という承諾を得ました。

そのため,相談者は,コンビニで6万円を引き出し,コンビニまでついてきた受付担当者に6万5000円を支払っています。

(5)これで全て解決したと,相談者が再び最寄りの駅で電車を待っていたところ,再び「もう一度スタジオに戻ってきてほしい」と要求され,やむなく,再度,撮影会場に戻ると,個室に案内され,そこには暴力団員風の人物がおり,その者から「上司に確認したところ,本件は強制わいせつ罪にあたる可能性がある件なので,6万5000円で許すことは出来ないので,覚書を書くように」と要求されました。

その後,「帰らせてほしい」と言う相談者に対し,「覚書を書くまで帰すことは出来ない」と言われ,最終的に,50万円を支払うという内容の書面が作成されました。また,運転免許証を顔の横に示した写真も撮られています。この間,約2時間が経過していました。

(6)以上のような事実経過のもとで,本件の解決を求めて,相談者は県民合同法律会計事務所に相談にみえました。

 

◆ 事件の解決

(1)Xらの要求は,明らかに違法な要求であるため,相談者から詳細な経過を聞き取ったうえ,この間の事実関係を詳細に記載し,そのうえで弁護士としての法的評価を加えた書面をXに送付しました。

弁護士として相手方に主張した点は,次のとおりです。

① 誓約書については,参加者がモデルの身体に接触することを防止するための注意的な文言と解され,この文言に法的拘束力を持たせることは,消費者契約法第10条に違反し,無効と考えます。

② 覚書は,民法第96条1項の強迫に基づく意思表示であり,本通知書をもって取り消し,金銭の支払は致しません。

③ Xにおいて,法的に請求権があると考えるのであれば,訴訟を提起してください。

④ ただし,そのような場合には,弁護士として,本件に関与した者に対し,監禁罪(刑法第220条/3年以上7年以下の懲役)及び強要罪(刑法第223条/3年以下の懲役)等により刑事告訴すると同時に,公安委員会に対し本件事実を申告し,Xの行っている店舗型性風俗特殊営業の停止を求める申立てを行います。

⑤ 本書面に何らかの異議があれば,弁護士の方に連絡ください。

(2)その後,半年以上経過しましたが,弁護士にも本人にも,何の連絡もありません。

 

◆  弁護士のコメント

Xの方では,性的な撮影会を主催すると同時に,当然,モデルに対し接触したりする客がいた場合,そのような客から金銭を脅し取る前提で段取りが組まれているものと考えられます。

同種の詐欺的強迫的な請求がなされることは,多数あります。相手は,本人が第三者に相談しにくいような状況のもとで,その弱点を利用して金銭を請求する場合が多いです。

しかし,一方で,相手にも法律的な弱点があります。

弁護士は,このような事例も多数扱っていますので,臆することなく相談してください。