結婚前の貯金を,実質的に財産分与の対象としたケース

【事案の内容】

御相談頂いたのは,千葉県千葉市内にお住まいの40歳代女性でした。

5年前に友人の紹介で同じ年の夫と結婚しました。

御相談者は,生まれも育ちも千葉市でしたが,夫は,埼玉県越生町の出身で,越生町の公務員でした。

御相談者は,結婚を機に千葉市内の勤務先(大学卒業後から勤務し,勤続16年で役職にもついていました。)を退職し,夫が住む越生町に引っ越しました。

知り合いも友人もいない越生町で,頑張って生活してきましたが,夫の心無い態度(いわゆるモラハラ)が重なり,離婚を決意しました。

その後,県民合同法律会計事事務所に法律相談のご予約をいただきました。

御相談は,夫が公務員となってならずっと貯めていた預金約2000万円について,財産分与として半分貰えるかという内容でした。

【事案の解決】

後述する【弁護士のコメント】にも記載致しますが,婚姻前に取得した財産は,財産分与(民法768条1項)の対象にはなりません。

本件でも,夫が公務員となってならずっと貯めていた預金約2000万円は,財産分与の対象にはなりません。

御相談者と夫には,上記夫の預金を除くと,約100万円の財産しかありませんでした。

原則論では,この約100万円だけが財産分与の対象となり,御相談者は財産分与として約50万円の譲渡を受けることになります。

しかし,御相談者は,結婚を機に住み慣れた千葉から全く縁のなかった埼玉県越生町に引っ越してきて,仕事も友人も失いました。

特に,御相談者が外出した際,夫がその詳細を微に入り細を穿って問いただしていました。

そのため,御相談者は外出を控えていると,友人とも疎遠になっていきました。

仕事も友人も失って引っ越してきたのにわずか5年で離婚することになり,その主な原因が夫のモラハラにあったことを考えると,上記約50万円だけでは,御依頼者は到底納得がいかないとのことでした。

また,仕事を失ったことを考えると,今後の生活のためにも,ある程度まとまった金銭が必要なことは明らかでした。

そこで,調停を申し立てた上で,上述した,結婚を機に千葉市から越生町に引っ越してきたこと,引っ越した結果千葉市内での仕事を失ったこと,距離的に遠いのと夫のモラハラとで友人とも疎遠になってしまったこと,離婚の原因が夫のモラハラにあること等を主張し,名目はともかく,1000万円を支払って欲しいと主張しました。

当初夫は反対していましたが,婚姻期間中に御相談者が被った精神的な苦痛,離婚後,公務員である夫に比べ,無職の御相談者が経済的に劣位に置かれることなどを調停委員の先生を通じて,夫に告げ続けました。

その結果,夫の理解を得られ,500万円であれば支払うと妥協してくれました。

上記500万円は,請求金額の半分ですが,原則論から支払いを受けられる約50万円の10倍です。

御相談者にも上記500万円で御納得いただき,調停が成立しました。

【弁護士のコメント】

民法768条1項は,「協議上の離婚をした者の一方は,相手方に対して財産の分与を請求することができる。」と規定していますが,具体的に,どの財産をどのように分けるのかについては明文上明らかではありません。

通常,夫婦の共有財産をどのように分けるかについては,離婚協議の中で話し合われます。

夫婦間の話合いで決着がつかない場合には,離婚調停を申し立て,その中で夫婦の共有財産をどのように分けるかについて話し合います。

財産分与(民法768条)とは,婚姻した夫婦が,同居してから別居(又は離婚)するまでの間に,共同して作り上げた財産を,離婚するに際して分けることを意味します。

結婚して一緒に作り上げた共有財産を,離婚するときに分けるということです。

したがって,婚姻前に有していた財産は,一緒に作り上げた共有財産ではないので,財産分与の対象になりません。

本件でも,夫の婚姻前からの預金約2000万円は,財産分与の対象にはなりません。

しかし,夫に対し,妻が婚姻期間中に感じていたさみしさやつらさ,これからの将来の不安を説明し,夫の納得を得られた場合,本来の財産分与の範囲を超えて財産を取得できる場合があります。

本件もそのケースでした。

このような事件解決には,説得力・交渉力等のコミュニケーション能力が必要になります。

県民合同法律事務所は,約35年にわたり,千葉県民の皆様の法律相談のご予約を頂き,多数の御依頼を頂いております。

この間に得たノウハウや知識は,この文をお読み頂いている方々にお役立ていただけるはずです。

まずは,法律相談を予約頂きたく思います。

きっと,お力になれるはずです。