養育費を分割で支払ってもらうか,一括で支払ってもらうか

◆ 事案の内容

御相談者は,40代の女性。約20年前に夫と婚姻し,女の子を授りました。女の子は,現在12歳です。

夫の暴言や暴力(いわゆるDV)を理由に離婚したいと考え,約1年前に子を連れて実家に戻り,夫とは別居しております。

この間,夫と離婚について協議しており,離婚すること自体には夫婦とも異議はありません。

夫は,サラリーマンとして会社に勤めていましたが,別居直後に交通事故の被害に遭い,休業しました。

その後,治療の甲斐なく後遺症が残ってしまい,仕事に復帰することは困難と判断されました。

夫は加害者から,逸失利益を含む賠償金として,約5000万円を受け取りました。

その後,夫は障害年金を受給しながら生活しております。

御相談者には,パートタイム勤務で得る月額約10万円の収入しかなく,実家からの経済的援助も期待できない状況でした。

御相談者によれば,夫の性格上,養育費を支払うことを約束しても,近い将来,支払いが滞ることは目に見えているとのことでした。

どのような条件(特に,養育費をどのように支払ってもらうのか)で離婚するのが,子のために最も良いか教えて欲しいとの御相談でした。

 

◆ 事案の解決

御相談者には,弁護士から以下のとおりアドバイスさせていただきました。

お子様のためには,毎月継続して一定額の養育費を支払ってもらい,就学や病気の際には一定のまとまった金銭を支払ってもらうのが良い。

しかし,収入,経済状態及び性格等から,毎月継続して一定額の養育費を支払ってもらうことが困難な場合には,一定のまとまった金銭を養育費の前払いとして一括で支払ってもらうこともある。

この場合,金額は減額されてしまうし,毎月継続して支払ってもらうことはできなくなる。

本件では,夫の性格から,継続して養育費を支払ってもらうのは難しいとのことなので,まとまった金額を一括で支払ってもらうのが良いと思う。

夫は約5000円の賠償金の支払いを受けており,現時点ではまとまった金額を支払う経済的余裕がある。

このことからも,養育費は一括で支払ってもらう方がいいと思う。

御相談者は,上記アドバイスを受け,一括で養育費を支払ってもらいたいと考え,夫にその旨話したが,納得してもらえませんでした。

そこで,御相談者から依頼を受けた弁護士が,交渉にあたることになりました。

弁護士は,夫に対し,養育費の支払義務を免れることはできないこと,滞納すれば将来的に預金の差し押さえ等の強制執行手続を受ける可能性があること等を伝えました。

交渉の結果,500万円を養育費の前払い金として支払ってもらえることになり,御相談者は,現実に500万円の支払いを受けることができました。

 

◆ 弁護士のコメント

「養育費」とは,子が成人するまで養育するために必要な費用を意味します。

養育費は,子の父母が負担します。

父母が離婚する際には,養育費の金額,支払期間,および支払方法等について話し合って決めなければなりません。

争いになりやすいのは,養育費の金額です。

通常,父母の収入や支出等経済状況を考慮して,毎月支払う金額が決まります。

しかし,養育費の不払いが社会問題化していることからも明らかなように,話し合って決めた養育費を支払わない父が多くいます。

「親権者」と指定された母は,母子手当や児童手当の支給を受けたとしても,父からの養育費の支払いなくして,子との生活を維持していくことは難しいケースも多いです。

父に対する養育費支払請求を容易にするために,平成28年9月12日,法務省は民事執行法を改正すべく検討をはじめたと報道されましたが,改正目標は平成30年以降とされており,今しばらく時間がかかるようです。

継続して養育費を支払ってもらえない場合には,養育費を一括して支払ってもらうこともあります。

この場合,子が20歳になるまでに支払ってもらえる養育費の合計金額から,一定の金額を控除した残金を一括で支払ってもらうことになります。

一括で支払ってもらった場合,毎月の支払を求めることはできなくなります。

一括で支払いを受けた御依頼者のお話を伺うと,

・ 養育費の総額は減ってしまったけど,まとまってお金をもっていられるので,安心して子育てをすることができる

・ 支払いが滞ったときに催促する面倒がない

・ 前夫とはできる限り連絡を取りたくないと思っていたのでありがたい

等の感想を戴きます。

特に,婚姻期間中,DV被害に遭っていた御依頼者からは,一括で支払ってもらえてよかったと伺っております。

ただ,一括で支払うことができるだけの経済力が前夫になければ,一括支払いを受けることはできません。

また,一括でまとまった金額を支払うことに抵抗を示す前夫もいらっしゃいます。

このような場合には,養育費がお子様にとってどのような意味を持つ金銭なのか,支払いを怠った場合にはどのようペナルティがあるのか等をご説明して,御納得いただく必要があります。

このような説明には,正確な法的知識だけでなく,弁護士としての経験とコミュケーション能力が必要になります。

当事務所は30年以上の実績のある事務所です。

長年の経験から培われたノウハウをもって,個々の案件に当たらせていただいております。

養育費の支払いについて不安を抱えていらっしゃる方は,ぜひ当事務所に御相談ください。