事実上、親子同様の生活を送ってきたが、法的には親子関係がない場合の相続
- 2016年04月15日
- 家族・親族間問題の事例
◆ 事件内容
依頼人は,子どもの頃に実の母親を亡くしました。
その後,依頼人が15歳の時に父親が再婚し,依頼人は,父親と後妻さんと3人で生活していました。
後妻さんは依頼人のことを可愛がり,依頼人も後妻さんを母親として慕っていました。
その後,依頼人は結婚し,妻と子どもたち,父親と後妻さんとともに生活していました。
依頼人の子どもたちは,後妻さんのことをおばあちゃんとして慕っていました。
その後,依頼人の父親が亡くなった後も,依頼人夫婦は,後妻さんは依頼人の母親であり,子どもたちにとっては祖母であるとして,生活をともにしていました。
しかし,その後,平成18年頃から,後妻さんは,認知症や泌尿器の病気を患うようになってしまいました。
依頼人と妻は,実の母と変わりなく後妻さんの世話を続け,後妻さんを自宅で看病したり,入院させたり,手厚く介護しておりました。
しかし,後妻さんは88歳で亡くなりました。
なお,後妻さんと依頼人は,「養子縁組」などの手続は行っておりませんでした。
また,後妻さんは,一定額の預貯金を遺しておりました。
依頼人としては,実母と同様に,長年に渡り一緒に生活し,最期まで後妻さんの世話をしていたことから,後妻さんの預貯金を自分が相続できないかと考え,相談にいらっしゃいました。
なお,後妻さんには子どもはおりませんでしたが,存命の兄弟や,既に亡くなってしまった兄弟のお子さんたちがおりました。
◆ 解決内容
1 依頼人のように,「事実上の親子」として長年ともに生活し,老後の世話をしたとしても,他に相続人がいる限り,相続権は一切ありません。
本件においては,あくまで,後妻さんの存命の兄弟や,亡くなっている兄弟のお子さん(代襲相続)が相続人となります。
(なお,私が確認したところ,本件における相続人は,11名いらっしゃいました。)
2 依頼人には,最初に,前記のことを十分に説明し,納得して戴きました。
そのうえで,依頼人には,
相続人の方々に,この間,依頼人と後妻さんと間に実の親子と変わらない関係があったこと,依頼人が後妻さんの老後の世話を親身に行ってきたこと等を理解して戴き,
「一定の範囲で,兄弟姉妹の方々が相続した財産の一部を贈与してもらう」以外の方法がないことを理解して戴きました。
3 なお,依頼人は,後妻さんの長兄から,「後妻さんの財産は,すべて依頼人にあげる」と言われているとも述べていました。
しかし,そもそも,依頼人には,相続権がありません。
そのため,相続人(後妻さんの兄弟やその子どもたち)から拒否されれば,法的には,全く対抗することはできません。
4 そこで,私は最初に,相続人の方々に対し,正直に事実を記載した「ご通知書」を送付しました。
なお,通知を送るに際し,私は,
・ 当方で整理し,作成した「相続財産についての一覧表」
(預貯金の金融機関名,口座番号,残高などを記載しました。)
・ 相続関係図
なども同封し,相続人の方々に,事実を正確に理解していただけるように努めました。
5 その結果,相続人の方々から,
「相続財産の約1/4に相当する額を,依頼人にお渡ししても良い」
との回答を得ることができました。
なお,後妻さんの長兄が依頼人に対し,「後妻さんの財産は,すべて依頼人にあげる」と述べていたことは,事実であったようです。
しかし,相続が実現する段階になり,長兄は,息子や他の兄弟に猛反対されたようでした。
6 その後,私は相続人の方々から,今後の具体的な手続として,
・ 金融機関からの金銭の受け取り等,極めて煩雑な手続き一切について,私の方で責任をもって行い,金融機関から出金すること
・ その後,直ちに,依頼人が取得できる金額を差し引いたうえで,私が各相続人に対し,相続分に応じて配分する手続を全て行うこと
について,了解を得ました。
7 そのため,相続人の方々から,それぞれ,
「依頼人に相続分を譲渡したうえで,依頼人の代理人である私の方で出金して,相続人に返還する」
という内容の『合意書』を戴きました。
そのうえで,
① 「相続分譲渡合意書」を作成し,各相続人の方々の相続分を全て依頼人に譲渡してもらい,
② 依頼人の代理人として私が出金の手続一切を行い,
③ 依頼人の取得分を差し引いたうえで,各相続人に適正に配分して,返金する
という手続をとりました(私が相続人の代理人になることは,利益相反行為になるために,このような手続としました。)。
8 なお,依頼人は,「少なくとも,相続財産の1/2程度は取得したい」と希望していました。
しかし,本件においては,仮にどのような事情があろうとも,依頼人に相続権はありません。
相続人の方々が,依頼人に対して,「一銭も渡す必要がない」と強く主張すれば,依頼人は一銭も取得することができませんでした。
9 相続人の方々においても,相続人が11名もおり,「相続に伴う煩雑な手続を自分たちで行うことは大変だ」という思いもあったとは推測していますが,
一方で,依頼人と後妻さんとの深い繋がりについても理解して戴けて,私の提案した処理方法に同意して戴けたものと思っています。
◆ 弁護士のコメント
私も,長年,弁護士として,相続事件(遺産分割事件)を担当してきましたが,通常は,「相続権があることを前提に,相続財産をどのように分けるか」という事件がほとんどです。
本件事件のように,「相続権が全くない中で,相続人にお願いして,相続財産を分けてもらう」というようなことは,初めてでした。
そのため,依頼人から最初にご相談を受けた時は,「相続権がないので,お受けすることはできない」とお断りしました。
しかし,事情をよく知っている後妻さんの長兄が,「妹の財産は全て依頼人にあげてもよい」と言っているというようなお話であったため,お受けすることにしました。
その結果,蓋を開けてみると,相続人は11名おり,相続人の方々も,事実を知れば「相続財産の全てを相続権のない依頼人に渡す」ということにはならなかったため(当然のことと思いますが),相続人の方々の理解を得るのは,大変苦労がありました。
しかし,相続財産の一部を,依頼人が戴くことができたのは,事実を正直に相続人の方々にお伝えしたことから,相続人の方々に信頼して戴けたことによるものと思っています。