作業中の傷害事件(被害者側)
- 2015年11月30日
- その他事件の事例, 事業・労働問題の事例
◆ 事件内容
依頼者(被害者)と加害者は同僚であり,ともに解体業及び土木工事業等を行う会社に勤務していました。
その日,依頼者と加害者は,他の従業員とともに,作業現場の斜面に生えている森林の伐採を行っていました。
作業中,依頼者は加害者から,作業上,不合理な指示を受けました。
そのことから口論となり,加害者が依頼者の胸ぐらを掴み,「なにこのやろう」と凄んできたため,依頼者も頭にきて,「殴れるものなら殴ってみろ」と言ったところ,加害者は手拳で依頼者の右顔面耳付近を殴り,さらに,体当たりするように依頼者に飛びかかりました。
その結果,両名は斜面を転げ落ち,依頼者は顎の骨を折る傷害を負いました。
当初,依頼者は,加害者や会社と自分で話し合いをしていました。
しかし,相手方に全く誠意がないことから,依頼者は,当事務所に相談にいらっしゃいました。
◆ 解決内容
依頼者から依頼を受け,私が代理人となり,訴訟を提起しました。
当方の主張の構成は,「加害者の不法行為」及び「会社の使用者責任」による損害賠償を求めました。
その結果,依頼者にも「加害者の暴行をけしかけるような行為があった」として,3割の過失相殺をとられましたが,約150万円の損害賠償が認められました。
なお,本件の依頼者は,資力がなかったことから,弁護士費用等について,法テラス(日本司法支援センター)の援助を受けております。
◆ 弁護士のコメント
加害者や会社は,
「そもそもケンカであって,加害者に責任が無いとは言えないが,会社が同僚同士のケンカにまで責任を負う必要はない」
と主張していました。
本件の問題点は,
第1に,いわゆる「ケンカ」ではなく,加害者が依頼者に対し,一方的に加害行為を加えたということを明らかにする必要がありました。
第2に,会社の責任を追及するために,民法第715条の「使用者責任」の規定にある「被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害」に該当する必要がありました。
この点について,最高裁判所(昭和44年11月18日 第3小法廷)は,
「会社の事業の執行行為を契機とし,これと密接な関連を有すると認められる行為によって加えたものである……会社の事業の執行につき加えた損害に当たる」
としています。
本件においても,事件が,会社の事業である伐採工事に伴い,現場の作業員同士で,作業手順についての意見の相違から,その現場において,時間的にも事業の執行中に行われたものであるから,会社にも責任があると主張して,この主張が認められました。
この根底には,
「会社は多くの従業員を使い,これにより利益を得ているのであるから,従業員が第三者(従業員同士でも同じです。)に加えた損害については,会社も損害を賠償しなければならない」
という考え方が前提となっています。
したがって,加害者個人には賠償能力がない場合でも,会社を訴えることにより,損害を賠償してもらえることもあります。