こんな土地いらない事件
- 2022年05月09日
- その他事件の事例, 不動産問題の事例, 家族・親族間問題の事例
◆ 事件の内容
依頼人は,千葉市在住の方でしたが,宮城県内の土地について,本来,依頼人を含め4名の方が相続すべき土地が,他の方の名義で登記されている,ということで争い,依頼人が勝訴して,この土地を4名の兄弟姉妹で相続登記することができました。
この事件は,私が依頼人の代理人として関与し,勝訴したことで,依頼人には大変喜んでいただきました。
ところが,その後数年経って,依頼人が再び私の事務所に訪ねてきて,頑張って相続登記はしたものの,宮城県内の土地で売却することも利用することもできず,ただ固定資産税を払い,しかも,周囲からは,管理が十分されていないと文句を言われているので,この際,この土地の持分を放棄したいので,どうすれば良いか,という相談でした。
以前,依頼人と共に,頑張ってなんとか取得した土地にもかかわらず,今度はいらないので放棄したい,という依頼でした。
◆ 事件の解決
(1)単独の所有地であれば,勝手に放棄することは,現時点ではできません。但し,「相続土地国庫帰属法」の成立により,令和5年4月27日からは,一定の極めて厳格な要件の下に,相続した土地を国に引き取ってもらえることにはなりました。
(2)但し,本件の場合,共有地であり,共有地については,民法第255条により,「共有者の一人がその持分を放棄したとき,・・・他の共有者に帰属する。」とされています。
そのため,依頼人が,他の3名の共有者(甲,乙,丙)に対し,持分の放棄の意思表示をすれば,その時点でそれぞれ4分の1ずつの持分であったものが,依頼人は抜けて,残りの3名の方が3分の1ずつ持分を持つということになります。
(3)実際の手続としては,まず最初に,他の持分権者である3名の方に,依頼人の持分を放棄する,という意思表示を内容証明郵便によって行いました。
そのうえで,裁判所に対し,他の3名の共有者を被告として,原告の持分4分の1について「共有持分放棄を原因として,原告から各被告らへの各持分12分の1(依頼人の持分4分の1を他の持分権者に12分の1ずつ引き取ってもらう)による各持分移転登記手続をせよ」という申立を行いました。
その結果,依頼人は,登記簿上からも持分権者ではなくなり,固定資産税の負担も,管理の義務も負わないこととなりました。
(4)なお,他の共有者も,依頼人と同じような思いだったと見えて,甲と乙は弁護士に依頼して,甲は乙と丙に対し,乙は丙に対し,持分権放棄の意思表示を順次することになり,既に高齢になっていた丙のみは,何の手続も執らず,出遅れてしまいました。
(5)その結果,本件土地の持分権者は,依頼人が抜け,その後,甲及び乙も抜け,丙の単独所有となりました。
従ってその後は,丙のみが,固定資産税の負担と土地の管理を行うことになりました。
(6)結局,言葉は悪いですが,丙がババを引いてしまった,ということになります。
丙が,この土地を放棄しようとするならば,今後「相続土地国庫帰属法」が施行された後に,その厳格な要件を充たすことができれば,国に引き取ってもらえることになりますが,そうでなければ,単独所有となっている土地を勝手に放棄することはできません。
◆ 弁護士のコメント
(1)依頼人は,今後負担となる土地の持分の所有者から早々に抜け出すことができ,肩の荷を下ろしたようで,喜んでいましたが,結局,本件土地の固定資産税の負担や管理を丙に押し付けたような形になってしまい,弁護士としては,あまり気分の良い結果とは言えませんでした。
(2)一時代前には考えられなかったような,相続した土地の押し付け合いのような現象が起きていることを,身をもって体験させられた事件でした。