離婚訴訟(妻から)

◆ 事件の内容

(1)この事件は,私が法テラスの相談担当の際に,法律相談に来た女性(相談者)からの依頼でした。

法律相談の際,ご本人に精神的障害があるということで,市の健康福祉センターの相談員が付き添って来ておりました。

 

(2)相談者は,精神医療施設に入院中に,同じ病院に入院していた相手方と知り合い,両名とも退院後,相手方が相談者の自宅アパートに訪ねてくるようになり,交際に発展しました。

 

(3)相談者は相手方から,「連絡するために携帯電話が必要だ」と言われ,携帯電話の契約をするため,ともに店舗に出向いたところ,携帯電話の代金も使用料も,全て相手方が負担するので,3台買ってほしいと頼まれました。

相談者は,相手方の言うがままに,相談者名義で,携帯電話3台分の契約をしてしまいました。

但し,内2台は,相手方により回収されてしまいました。

 

(4)交際してから半年程経つと,相談者は,相手方からDV(家庭内暴力)を受けるようになりました。

しかし,相手方との関係を断ち切ることができないままでいたところ,相手方は相談者をアパートに監禁して,外部との接触を断ったうえ,「籍を入れろ」と再三迫りました。

そして,相手方は,相談者が気力を失った頃を見計らい,相談者を外に連れ出し,既に用意されていた婚姻届出用紙の「妻」の欄に署名・押印するよう,相談者に迫り,署名・押印させ,婚姻届を提出させました。

 

(5)しかし,その後も相手方による相談者へのDVが続いたことから,相談者は相手方のもとを逃げ出したものの,捕まってしまい,相手方のアパートに軟禁状態となりました。

相談者は何度か逃げだそうとしたものの,その都度捕まってしまい,相手方から「今度逃げたら,仲間を何人も連れてきて乱暴するぞ」と脅されました。

 

(6)ところが,ある日,相談者と相手方が相手方の友人の車に乗っていたところ,他の車に追い越しをかけられました。

友人が腹を立て,その車を抜き返し,その後,互いに抜いたり抜かれたりを数回行いました。

最後は,友人がその車を止めて,運転手を引きずり出し,相手方も友人とともに運転手を殴る蹴るしたうえ,運転手の子どもまで殴る等しました。

その結果,相手方は友人とともに逮捕され,暴力行為等処罰に関する法律違反と覚せい剤取締法違反(捜査の過程で発覚しました。)で実刑を受けました。

 

(7)なお,相談者の周囲の人達は,相手方について,相手方が相談者と入籍したのは,相手方が多重債務を抱えており,氏名を変更することによって新たな借入が出来るようにしようとしたのではないかと見ていました。

 

(8)相談者としては,相手方が実刑判決を受け,刑務所に収監されている間に,離婚して,二度と,暴力をふるわれたり,利用されることがないようにしてほしいという依頼でした。

 

 

◆  事件の解決

(1)本件は,法テラス(日本司法支援センター)での法律相談であり,相談者が生活保護を受給していたことから,当然,法テラスを介しての契約となりました

 

(2)離婚は,一般的には「調停前置主義」です。

しかし,本件では,相談者から聴取して詳細な「陳述書」を作成したうえ,調停は事実上困難であるということで,最初から,千葉家庭裁判所に離婚訴訟を提起しました。

 

(3)当初,相手方は,千葉刑務所に収監されているとして,訴状記載の相手方の住所を「千葉刑務所内」としました。

しかし,その後,既に千葉刑務所には在監していないことが判明したため,弁護士法第23条の2に基づく照会(弁護士会照会)を行い,相手方が在監している刑務所を明らかにしました。

 

(4)離婚訴訟の場合,私が経験した限りでは,相手方が裁判に出頭できなかったり,しない場合には,原告本人である相談者を代理人弁護士が尋問し,その後,裁判官がさらに補充尋問して,心証を得て判決するという手続がとられていました。

しかし,本件については,相談者の詳細な「陳述書」を提出したところ,裁判所は,特に本人である相談者を尋問することなく,離婚を認める判決を出してくれました。

 

(5)なお,相手方が出所後,また相談者を探し出して,暴行・脅迫を加え,復縁を迫る等することのないよう,福祉の方たちの協力を得て,相談者の住所を変更し,新たな住所が第三者に開示されないようにしてもらう手続をとりました。

 

 

◆ 弁護士のコメント

本件は,相談者本人にも精神的な障害があり,その弱点につけ込まれ,利用されてしまった事件だったと思います。

第三者的に見れば,暴力をふるわれ,利用されているのは明らかであり,もっと早くに相手方と別れることが出来たのではないかと思うかもしれません。

しかし,暴力や脅迫により,マインドコントロールのもとに置かれると,当事者の間にそれなりの関係ができてしまい,客観的視点に基づいて,別れを決断し,それを実行に移すということは,なかなか困難なことだと思いました。

本件は,たまたま相手方が相当期間の実刑を受け,相談者には精神的障害もあったことから,福祉の相談員が親身に相談にのる等して,なんとか弁護士のところまでたどり着き,法的手続をとることができました。

しかし,そのような機会が与えられなければ,その後も二人の関係は続いていたのではないかと思わざるを得ない事件でした。