建物明渡請求事件(定期建物賃貸借であるとの主張)
- 2018年09月12日
- 不動産問題の事例
◆ 事件の内容
(1)相談者は,平成19年12月1日,建物を借りて,ラーメン店を経営していました。
最初の頃は,あまり業績も上がりませんでしたが,徐々に評判となり,利益を上げることが出来るようになってきました。
(2)ところが,家主から突然,「本件賃貸借契約は,契約上,借地借家法38条1項の規定する定期建物賃貸借契約であり,10年間の期限と定められているので,平成29年11月末日には建物を原状復帰して返還するように」という内容証明郵便が送られてきました。
(3)相談者は,契約書に「賃貸借期間は10年」と書いてあることは認識していたものの,仲介した不動産業者からは,「賃料の滞納がなければ,更新はしますから」と言われ,「賃料はきちっと支払っており,店も軌道に乗ってきたことから,期間を延長しよう」と思っていた矢先でした。
そのため,相談者は,私の事務所を訪ね,「なんとか期限を延ばすことはできないのか?」という相談でした。
(4)しかし,相談者と家主との「店舗賃貸借契約書」を見ると,「借地借家法第38条に規定する定期建物賃貸借契約を締結した」と記載され,さらに,契約期間として,「平成19年12月1日より平成29年11月末日までの10カ年間とする」とされ,「本契約は前項に規定する期間の満了により終了し,更新がない」とも記載されていました。
◆ 事件の解決
(1)一般的には,借地人にしろ借家人にしろ,借地借家法により保護され,契約期間が満了しても,「正当な理由がない限り,明渡や退去を拒むことが出来る」ことが原則になっています。
しかし,「一定期間に限って土地を貸したい」あるいは「一定期間に限って建物を貸したい」という社会的な要請もあり,また,借りる方も,「一定期間借りることができればそれで良い」という場合もあることから,「定期借地権」や「定期借家権」という制度が認められることになりました。
(2)しかし,本件の様な「定期借家契約」を結ぶ場合には,借家人に誤解がないように,借地借家法第38条1項により,「定期建物賃貸借契約の締結については,公正証書による等,書面によって契約するときに限り」としています。
しかし,昨今の賃貸借契約書は,ほとんど書面によってなされており,このような書面がないということは,通常はありません。
しかし,同法2項には,さらに「同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により当該建物の賃貸借は終了する事について,その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない」と規定されています。
(3)これは,契約書とは別に,「重要事項説明書」などに「期間の満了により,更新されることはなくこの賃貸借契約は終了する」と明確に記載したうえ,この説明をすることが定められています。
最高裁判所も「借地借家法第38条1項の規程に加えて,同条2項の規程が置かれた趣旨は,定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って,賃借人になろうとする者に対し,定期建物賃貸借は契約の更新がなく期間の満了により終了することを理解させ,当該契約を締結するか否かの意思決定のために十分な情報を提供することのみならず,説明においても更に書面の交付を要求することで契約の更新の有無に関する紛争の発生を未然に防止することにあるものと解される」(平成24年9月13日最高裁判所第一小法廷判決)と判示しています。
(4)本件においては,相談者に渡された「重要事項説明書」には,「契約期間10年」との記載はあるものの,その他「10年経過した場合,更新されず本件建物の賃貸借契約は終了する」ということは全く明記されていませんでした。
(5)そのため,私の方では,家主の方で申し立ててきた,建物明渡を求める民事調停に際し,「本件賃貸借契約においては,借地借家法第38条2項に定める書面の交付と説明がなされていないので,定期借家契約とは認められず,したがって,通常の借家契約となることから,ラーメン店を経営し,これを生活の基盤としている相談者に建物を明け渡さなければならない理由はない」として,家主の主張を退けることが出来ました。
◆ 弁護士のコメント
当初,相手方(家主)の弁護士も,「契約書」には「定期借家契約」と記載されていることから,問題なく明渡は可能であると考えていたようです。
しかし,借地借家法38条には,2項の規定があり,借家人が安易に定期借家契約を結んでしまい,後で「こんなつもりじゃなかった」ということのないように,借家人に注意を促し,保護する規定があります。
定期借家契約を結ぶ時は,家主の方は,十分,この点を認識して,「契約書」とは別書面(「重要事項説明書」など)に「期間が満了した場合,本契約は更新されず,賃貸借契約は終了する」ということを明確に記載し,また,このことを十分借主に説明しておく必要があります。