婚約破棄による慰謝料請求
- 2018年09月10日
- その他事件の事例, 家族・親族間問題の事例
◆ 事件の内容
(1)相談者(女性)の相談内容の要旨は,次のようなものでした。
① 相談者と相手方の男性は,同じ会社に勤めていて,新人研修が一緒であったことから,仲の良い友人となりました。
相談者は相手方に対し,既婚男性と不倫していることを話し,相談にのってもらっていました。
相手方も,過去の不倫経験を話すなどして,親身に相談にのってくれていました。
② その後,相談者は,不倫相手と別れ,相手方と正式に交際を始めました。
しかし,研修が終わったことから,相談者は関西,相手方は東京にそれぞれ配属されることとなりました。
そのため,相談者と相手方は,毎日のように電話で話したり,メールを交換するなどしていました。
また,休日には,新幹線で,互いの中間地点で会ったり,レンタカーを借りてドライブするなど,交際を重ねていきました。
③ 翌年の連休には,互いに話し合い,互いの実家に挨拶に行きました。
相談者は相手方の実家で,相手方から相手方の母親や妹に対し,「婚約者」として紹介されました。
また,相談者の実家では,相手方は相談者の両親に対し,
「(相談者と)結婚を前提としておつきあいさせて戴いています。今日はそのご報告に来させて戴きました」
などと述べました。
④ その後も二人の交際は順調に続き,その年の秋には,相談者の両親,相手方の母と妹が,顔合わせのために料亭に集まり,6名で,今後,家族ぐるみのおつきあいになるということで,互いに「よろしくお願いします」という会食をしました。
⑤ さらに,翌年の正月には,互いに両家を訪れ,「婚姻届」の証人欄に,相談者の母親,相手方の母親それぞれが,署名・押印しました。
このような前提で,その年の4月には,相談者と相手方は,千葉市内のマンションで共同生活を始めました。
⑥ しかし,正月には「婚姻届」の証人欄に両家の母親に署名・押印してもらい,その後,二人の共同生活が始まったにもかかわらず,「婚姻届」は提出されないままでいました。
なお,「婚姻届」を提出していなかった主な理由は,相談者が,以前不倫相手だった男性に対して金銭的な要求をしており,それが解決していなかったことです(但し,この年の夏にはこの件は解決しています。)。
⑦ この年の夏,相談者は,相手方の母親と二人で,5日間かけて北海道旅行にも行っています。
その際,相談者は相手方の母親から「息子と早く結婚してくれないの?」「家族に障害者がいるから心配なの?」等と言われ,既に気心が知れていたことから,「彼と生活のリズムが合わないので,ちょっと不安なところがあるんです」と答えていました。
⑧ 相談者が北海道旅行を終えて千葉のマンションに帰ってくると,相手方が,相談者が不在の間にディズニーランドに行ったと思われるような,キャラクターのぬいぐるみやクッキーの空き箱がありました。
また,今まで家になかった柔軟剤があって,洗濯物に使用されており,相談者は,相手方に女の影を感じました。
⑨ その後,相談者は,相手方と連絡が取れなくなる日がありました。そのようなことは今までなかったため,相談者が相手方に対し,「どこに行っていたの?」と聞いたところ,相手方は,「別にどこに行っていたわけでもないよ」とはぐらかしました。
そして突然,「俺たちもう無理だよ」「別れよう」「一人で生活する方が楽しかった」等と言い出し,「おまえの掃除も洗濯も適当だ」「料理も気分で作るだけで,台所を汚されるだけだ」「部屋が不潔でありえない」などと相談者を攻撃しました。
相談者としては,ここまで言われては別れを決意せざるを得ず,マンションは相手方の社宅であったため,相談者が出ざるを得ませんでした。
⑩ なお,相談者は,相手方と同居を始める際,自身の電化製品等を全て処分していました。
そのため,マンションを出るについて,少し経済的に負担してほしいと相手方にお願いしたところ,相手方は相談者に対し,「別れた女に金なんかやるか」と述べました。
その結果,腹に据えかねた相談者は,市内に適当なマンションを見つけ,引越業社を頼み,相手方が仕事で留守の間に,家財道具一式を持ち去りました。
⑪ 翌日,相談者のもとに警察から連絡が入り,相手方と二人で話し合うように指示がなされ,持ち去った電化製品等については,相談者が20万円で買い取るという約束になりました。
しかし,相談者は,引越代を一銭も払わない相手方の言動に納得できず,自身の判断で,20万円から引越し代3万円を差し引き,17万円を相手方の銀行口座に振り込みました。
その結果,相手方は正式に警察に被害届を提出し,相談者は,警察及び検察庁で事情聴取を受けました(但し,処分はなされませんでした)。
◆ 事件の解決
(1)婚約破棄による慰謝料請求については,判例上,「婚姻予約とは,将来において適法な婚姻をすることを目的とする契約であり,これを不当に破棄した者は,慰謝料の支払い義務を負うとする」とされています。
(2)しかし,慰謝料の算定要素については,挙式・披露宴・結納やそれらの準備があったか否か,親族や友人への紹介等があったか否か,さらに,暴力や他の異性との交際等があったか否か,その他,交際期間,同居期間,妊娠,中絶,出産,破棄当時の年齢等さまざまな要素を加味して算定されます。
主な裁判例においては,判例上,300万円~25万円という大きな幅があります。
(3)本件においては,相談者の強い希望で訴訟を起こすことになりました。
その結果,この間の様々な経過などを加味して,相手方から50万円を支払ってもらうことで解決しました。
◆ 弁護士のコメント
相談者にも,ある時期から,結婚を躊躇する気持ちがあったようです。
そのため,「婚姻届」の提出については,むしろ相談者側で遅らせていたような面もあります。
しかし,相手方から一方的に別れ話をされたうえ,家を出ざるを得なくなった相談者に対し,相手方が「別れた女に金なんかやるか」等述べたことが,相談者のプライドを打ち砕き,復讐せずにはいられない気持ちにさせてしまったようです。
このように,男女の問題は「気持ちの問題」であることも多く,本件の相談者は,相手方から受け取った金額は少ないものの,裁判を起こすことで自分の気持ちに整理をつけ,新しい人生を歩み出すことが出来たようです。
裁判等を起こさずに別れることが出来れば一番良いのですが,相談者が前に進むためには,やむを得ない過程だったと思います。