相続人多数の遺産相続2
- 2018年09月05日
- 家族・親族間問題の事例
◆ 事件の内容
(1)ご高齢の相談者の妻が死亡し,やはりご高齢の夫(相談者)が約1000万円の預金を相続するという事案でした。
(2)法定相続分は,相談者が3/4,亡くなった妻のご兄弟らに1/4がその相続分に従って配分されるということになります。
(3)しかし,ご兄弟は5名おりましたが,生存しているご兄弟は1名で,残りの4名のご兄弟は既に亡くなっていたため,その子供らが代襲相続人として取得することとなり,相談者以外の相続人が19名いるという相続でした。
(4)生存しているご兄弟の持分割合は1/20,その他の代襲相続人の持分割合は,1/40の方,1/100の方及び1/120の方がおりました。
(5)当初は,世話役の人が取りまとめようとしましたが,ほとんどの方が「遺産を受け取るつもりがない」という一方で,一部の方は「少額でも遺産を受け取りたい」という意向を示していました。
そのため,当事者だけでは如何ともし難いということで,私は相談者から「適正に遺産分割をして,適正に配分してほしい」との法律相談を受け,依頼されることになりました。
◆ 事件の解決
(1)このように,相続において多数の相続人がいる場合には,一人一人回ってお話しをして,相談者に対し,有償または無償で「相続分の譲渡」をして戴くという方法もありますが,一件一件そのような手続を取っているのでは時間ばかりかかってしまうので,相談者を「申立人」,その他の相続人全員を「相手方」として,遺産分割の調停を申し立てました。
(2)このような申立がなされると,裁判所は,各相手方にそれぞれ,相続分についてどのような意向があるかをまず確認する手続を取っているようです。
本件の場合は,「相続分を相談者に譲渡しても良い」という意見の方が10名おり,「相続分を取得する」という方が7名,2名が「回答なし」という状態で,調停期日には,相談者の代理人である私以外,誰一人出席してきませんでした。
(3)私は裁判所から,このような前提のもとで,私から各相続人に対し,再度,意向を確認したうえ,「相続分を譲渡しても良い」という方からは,「印鑑登録証明書」「相続分譲渡届出書」「相続分譲渡証明書」を送付してもらい,これを裁判所に提出するよう求められました(なお,この書式は,家庭裁判所のホームページに掲載されています。)。
但し,いきなりこのような書面を送りつけるのではなく,この間の経緯を記載した書面を付け,電話でお話できる相手とはお話しをするなどしたうえで書類を送付させてもらいました。
(4)その結果,19名中17名の方からは,「相続分譲渡」等の書類を戴くことができました。
(5)これを前提に,裁判所は,「相談者が預金を全て単独取得する」としたうえで,2名の方に対しては,審判確定の日から2ヶ月以内に,それぞれ相続分に相当する金額を支払うという内容の「審判」をしました。
(6)その結果,私の方で,相談者の代理人として,預貯金を引き出し,2名の相続人に対しては,事前に通知を出して,振込先を確認したうえ,指定された口座に各送金させて戴きました。
(7)その結果,遺産である預貯金のうち約96.6%を相談者が取得することができました。
◆ 弁護士のコメント
相続人が多数になると,その所在を確認したりすることに手間がかかりますが,戸籍謄本や戸籍の附票を順次取り揃えていけば,相続人を確定することは,それほど困難なことではありません。
解決のためには,「遺産分割調停」を申し立てざるを得ないのですが,各相続人に対し,この間の経過について分かりやすく説明したうえ,「相談者としては,相続分を譲渡して戴ければありがたいと思っていますが,相続人の方には権利がありますので,権利を主張される方は,調停手続の中でそのように意見を明らかにしてください」というような書面を事前に送っておくことが必要だと思います。
以前,私は,このような配慮をせずに調停を申し立てていたところ,相手方としては,突然,裁判所から,内容がよくわからない書面が一方的に送りつけられたということで,お叱りの電話を戴いたことが何度かありました。
最近では,必ず事前に,この間の経過を記載した書面とともに,やむなく調停の申立をせざるを得なかった旨を記載した書面をお送りするようにして,なるべく事前にご理解を得るようにしています。
その結果,お叱りを受けることは少なくなりました。