社債取引被害
◆ 事件の内容
依頼人は,インターネット関連事業や不動産事業等を多岐に行っているA社の代表取締役から勧誘を受け,A社の一口100万円の債権を5年間に渡り合計20口,合計金2000万円で買い取っていました。
当初,依頼人は,その代表者の方を心の底から信頼していたとのことです。
この間,償還期限には償還され,年利の2.95%の支払もなされておりました。
但し,A社自体,どのような仕事をして利益を得ているのか不明な点もありました。
また,その他の事情もあり,最近,依頼人は,A社に不信感を抱くようになりました。
しかし,この間,償還等もなされていることから,今後の償還期限の3年を待った方が良いのか,それとも,早期に解約して,返金してもらえる方法があるのかについて,相談を受けました。
◆ 事件の解決
1 弁護士として,依頼人に対し,
① 聴取した事情から,3年の間に倒産する危険は否定出来ないものの,これまで順調に支払われていることから,3年間待って償還を受ける。
② 25%の手数料を支払っても,直ちに中途解約する。
③ 依頼人の年齢や病気を理由に,適合性原則違反を理由に契約の無効等を主張して全額の返金を求め,返金されない場合は訴訟提起を行う。
という方向が考えられると説明しました。
但し,本件が,少人数の私募債であり,金融商品取引法の適応除外となっており,尚且つ,この間,支払を滞っていないこと等から,A社に内部的に問題があることが明らかになりつつあっても,訴訟で争うことは極めて困難であるとの説明もしました。
2 しかし,依頼人は,諸々の情報や事情から,直ちに解約し,全額の返還を求めることを強く希望していました。
そのため,私は,内容証明郵便で,中途解約するものの,適合性原則違反に照らし,減額することなく全額の返金を求めるという内容の書面をA社に送付しました。
しかし,A社からは,弁護士をたてて,「全額の返還に応じることは出来ず,解約するのであれば,正規の手続で解約するように」との反論がなされました。
3 その結果,私と依頼人は,このまま訴訟提起をすべきか,幾分損失を覚悟で正規の手続で解約すべきかについて,検討しました。
問題は,訴訟をした場合に,本件においては,
・ 絶対的に勝訴するという見込みがないこと
・ A社が争えば(本件の場合,争われることは明らかでした。),最低でも1年程度の期間がかかり,その間,A社が破綻しない保証はどこにもないこと
などの事情がありました。
そのため,依頼者とよくよく協議した結果,苦渋の選択として,A社の代理人が求める手続にのっとり,解約の手続を行い,25%減額された,75%の金銭を回収しました。
4 依頼人も,今後,A社が破綻してしまって,全くお金が返ってこないという事態を考えると,少なくとも75%回収されたことに,納得していました。
5 なお,その1ヶ月後,A社は倒産してしまい,前記の決断が少しでも遅れれば,全く回収出来ない事態になっており,依頼人からも改めて御礼の連絡を戴きました。
◆ 弁護士のコメント
1 本件は,幾分怪しい社債の販売であり,いずれ将来的には破綻するであろうということは,弁護士として見当がつきましたが,この間,順次償還はなされ,配当もなされていたことから,詐欺による取り消しや錯誤無効などを理由に,法的に争うことが困難な事例でした。
2 いわゆる詐欺まがいの金融商品取引においては,豊田商事事件当時から,会社が今後もその事業を継続しようとしている場合(詐欺被害等として,未だ炎上していない場合)には,弁護士が介入した場合に,7割~9割を返還する方向で和解の提示がなされ,回収可能性があります。
しかし,一方,経営者が,もはやこの会社は限界だと見切りをつけているような場合は,いかに請求しても,裁判を提起して判決を取ったとしても,一銭も払わずに逃げる算段をしているため,回収は困難であるというのが私の経験です。
したがって,同じ会社に対しても,少し早い時期のXさんは投資額のほとんどを回収することができたものの,少し遅れて同じ交渉をしたYさんは一銭も回収することができなかったということもあります。
3 そのため,私は,依頼者の方に,この辺の事情を十分説明した上,それでもどうしても手続を取ってほしいと希望される依頼者についてのみ,受任することにしています。
依頼者の方は,弁護士に対して,そのようなことは言いませんが,失敗すると,表現はあまりよくありませんが,いわゆる「泥棒に追銭」のような形になってしまうからです。
4 なお,本件処理にあたっては,依頼人に対し,前記のようなことを十分説明したうえ受任し,その後,相手方の対応を受け,依頼人とよくよく話し合い,総合的な判断として,苦渋の選択ではあったものの,解約手数料を支払っても早期に回収出来る方法を選択しました。
結果的には,そのことが良かった事例です。
但し,弁護士としても,この判断は非常に難しく,相手の会社について出来るだけ多くの情報を集めた上で,この間の長年の経験則から依頼人に助言をし,最終判断をしてもらっています。