認知請求事件(父親の死亡後の認知請求)

◆ 事件内容

依頼人のA子さんは,男性Bと交際し,結婚はしないまま,平成18年,2人の間に長男が出生しました。

A子さんは,結婚については特に希望しておりませんでしたが,認知だけはしてもらいたいと思っていました。

なお,男性Bには,

・ A子さんと交際する以前に離婚した妻Xとの間に,子どもが2人

・ A子さんと交際中に別の女性と結婚しており,その女性との間にも,子どもが2人

出生していました。

男性BはA子さんに対し,「近いうちに認知する」と言っていましたが,平成22年,交通事故で突然亡くなってしまいました。

依頼人のA子さんとしては,長男の戸籍の「父親」の欄が空欄であるということは,子どもの将来のためにとっても可哀想であると思い,なんとか認知だけはしてもらいたいと考えて,相談にみえました。

 

 

◆ 解決内容

(1)「父親が死亡してしまったのに,認知をしてもらえるのか?」と思うかもしれませんが,民法第787条の規定により,子どもは,父または母が死亡しても,死亡の日から3年間は,裁判で認知の訴えをすることができます。

父親が生きていれば,当然,父親が相手方になりますが,本件のように父親が死亡している場合は,長男の住所地の管轄検察庁の検察官を被告として,認知の訴えを起こすことができます。

 

(2)第1審では,

・ 長男と父親の血液型が齟齬しない事実

・ A子さんと男性Bとの間には継続的な肉体関係があり,長男を懐妊した時期にも2人の間に性交渉があり,出生後もその関係は継続していたという事実

を可能な限り「証拠」として提出しました。

しかし,裁判官からはなんの指示もなく(このような訴訟では,裁判所は,親子関係を認定するには証拠が不十分であると考えた場合には,「他にこういうような記録はないのか」など,代理人に尋ねるなどする場合が多いのですが,本件においては,そういうことは一切ありませんでした。),そのため,私としては,勝訴判決を得れるものと楽観していたところ,あっさり敗訴となってしまいました。

 

(3)そのため,直ちに控訴し,次のような「証拠」を追加して,新たに裁判所に提出しました。

① 交際当時の依頼人A子さんと男性Bの写真

② 長男が出生した後,現在に至るまでの写真(眉毛や目が父親とそっくりである事)

③ 母親であるA子さんが働いていたため,お手伝いさんを雇い,毎日,留守の間の長男の様子を書いてもらっていた「報告ノート」の中に,「パパ」として男性Bが再三登場していることの記載

④ DNA鑑定は一番強力な証拠となるはずでしたが,男性B側の両親にも,その他の関係者にも,一切,鑑定に協力してもらえなかった事実

 

また,お手伝いさんの1人に「証人」になってもらい,長男が幼少の頃,再三,男性BがA子さん宅を訪ねてきており,A子さんが不在の時にも自由に訪ねてきて,

「パパだよ,わかりまちゅか?」などと,子どもをあやしていた事実を証言してもらいました。

さらに,裁判において,8歳になった長男を裁判所に同席させるなどして,その容姿を裁判官に事実上見てもらうようにしました。

なお,裁判の最中に,突然,長男が「僕,パパのこと覚えているもん!」という発言をして,私自身,びっくりしました。

このようなことがあり,控訴審においては,控訴人である当方の主張が全面的に認められ,原判決は取り消され,「○○は,亡Bの子であることを認知する。」という判決をもらいました。

 

(4)この判決を市役所に提出し,戸籍の「父親」の欄に,男性Bの名前を載せてもらうことが出来ました。

 

 

◆ 弁護士のコメント

死後認知」の訴訟などは,長年弁護士をやっていても,滅多にない事件です。

そのため,第1審の段階では,幾分安易に考え,立証が不十分でした。

このことを反省し,「DNA鑑定」は相手方親族の協力が得られずに提出できなかったものの,母親と協力して,出来る限りの証拠を集めました。

その結果,控訴審(高裁)で第1審を逆転して,認知を認めてもらいました。

本件では,DNA鑑定が出来ない場合にも,その他の事実を丁寧に集めることにより,認知判決を得ることが出来たものとして,皆様の参考になると思います。